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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)173号 判決 1981年4月28日

控訴人

長谷川仙三

右訴訟代理人

今成一郎

被控訴人

間島文子

右訴訟代理人

坂井熙一

斉木悦男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

請求原因一及び二の主張事実は、当事者間に争いがない。

そこで、控訴人主張の契約の成否について判断する。

<証拠>を綜合すると、次の事実が認められる。すなわち、

被控訴人の夫昭二は、被控訴人とともに農業に従事していたが、自動車のセールスをするようになつた頃から、遊興にふけり、多額の借財をかかえ、昭和五一年二月頃には、地元の農業協同組合等に対し約二、〇〇〇万円の借受金債務を負担する状態であつた。被控訴人としては、一旦は農地を売却して昭二の債務を弁済したこともあつたが、一向に昭二の生活態度があらたまらないため、離婚を決意し、昭和五〇年三月頃、新潟地方裁判所に離婚請求の訴を提起するとともに、家を出て別居し、今日に及んでいる(右離婚訴訟は、昭和五二年七月九日被控訴人勝訴の判決が確定した)。ところで、昭二は、被控訴人所有の本件土地を同人に無断で売却しようと考え、照和五二年二月一五日、被控訴人の住所を「新潟市網ケ原六五二番地」に移転した旨の転出証明書の交付を受けたうえで、その転出先を「白根市大字能登二五番地」と改ざんし、これを同月二一日白根市長宛に提出して被控訴人の転入届をするとともに、有合わせの「間島」なる印章を使用して、被控訴人の印鑑登録の申請をなし、被控訴人の印鑑証明書二通の交付を受け、同月二三日、本件土地を控訴人に対して代金一、五〇〇万円で売却し、本件土地が農地であるため所有権移転登記を容易にする方便として、「控訴人が一、五〇〇万円を昭二及び被控訴人に貸し付け、その担保として本件土地に抵当権を設定し、期限内に弁済できないときは代物弁済として控訴人が本件土地の所有権を取得する。」旨の契約書を作成し、同年五月一日、前記印鑑証明書等を使用して、本件土地につき代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を経由するに至つた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

しかして、右認定の事実によれば、前記仮登記は、昭二により被控訴人に無断でなされたものであり、また、当時昭二と被控訴人との間には夫婦の実質はなく、婚姻関係は破綻していたのであり、かかる場合、夫婦の一方は、他方の日常の家事に関する法律行為につき民法七六一条の責任を負わないものと解するのが相当であるから、控訴人の表見代理の抗弁は、採用に由ないものというべきである。

よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(渡部吉隆 浅香恒久 安國種彦)

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